成年後見人(せいねんこうけんにん)とは、認知症などで判断能力が鈍った人の代わりに法律行為を代理し、被後見人(認知症などの本人)の財産を悪徳商法や本人に不利な契約などの被害から守るための役割をする人です。 成年後見人には「法定後見」と「任意後見」の二種類があります。

「法定後見」とは一定の範囲の申立権者が家庭裁判所に申し立てを行い、最終的には裁判所が適切な後見人を判断して選任するものです。
これに対し、「任意後見」とは、本人にまだ判断能力があるうちに行う契約であり、裁判所が直接に選任するわけではありません。
実際に成年後見人を選任するきっかけとなるのは、何らかの法律行為をしたい場合に関係者の中に判断能力のない人がいたため、その行為ができなくなっているといった状況が想定されます。中でも代表的なのが遺産分割協議でしょう。

成年後見人はどうやって選任するか?

では、法定後見人が選任されるまでにはどのようなプロセスが必要なのでしょうか。

まず、申立権者としては「本人、配偶者、4親等内の親族、市区町村長、他」となっています。たとえば身寄りのない独居老人で、申立てをしてくれるような人も周囲にいない場合は市区町村長が申立てることがあります。
裁判所には事案による「管轄」があり、成年後見申立てについては本人の住所地の家庭裁判所に申立書と添付書類(戸籍や住民票など)を提出することになります。
申立ての時点で「後見人候補者」といって、この人が適任であると考える人を家庭裁判所に挙げるのですが、もし裁判所が総合的に状況を見てその候補者が不適切であると考えた場合には「専門家後見人」として弁護士や司法書士が選ばれることもあります。
専門家が後見人に就任すると報酬が発生しますが、報酬は一律に決まっているわけではなく、一定の期間ごとに出される「業務報告」に基づいた適切な報酬を、本人の資力に応じて裁判所が決定することとなります。

成年後見人がつくと財産が裁判所の管理下に置かれる

成年後見人は、財産目録を作成したり、家庭裁判所に報告を行うなどの事務的な業務を行います。被後見人の財産を適切に管理することが仕事ですので、長期間にわたり責任を持った仕事ができる人でなくてはなりません。

いったん成年後見人がついてしまえば被後見人の財産は基本的に「被後見人の利益になる」目的でしか使うことができません。今まで同居して親の財産をある程度自由にしてきた人でも家庭裁判所の管理下に置かれることになるため、そもそもの制度趣旨を理解した上で申立てを行うことが大切です。

成年後見人が気をつけるべきこと

成年後見人は特に財産管理の面で親族とのトラブルになりやすいことが多く、使い込みなどの誤解を受けないよう、細心の注意を払って財産を管理しなくてはなりません。
後見人になるのが親族であろうと法律家などの第三者であろうと、「成年後見人は被後見人の財産を適切に維持管理するために存在する」という原則を忘れてはなりません。
常に「他人の財産である」という意識を持ち続けていなければならないのです。
基本的には収入や支出が生じるごとに金銭出納帳につけていくことですが、表計算ソフトなどを有効に活用し、効率的に処理できるようにしておくことが望ましいといえます。

では、多くの場合に生じる「預金」や「不動産」の管理について注意点を確認しておきましょう。

預金口座の管理

もし被後見人の口座が数口ある場合、なるべく管理しやすいように口座をまとめる方がよいでしょう。多くの金融機関では「〇〇成年後見人〇〇」のように、後見人名義にすることができます。その場合、金融機関に対し「後見開始の審判書」や「後見人自身の身分証明書や印鑑証明書」を提出しなくてはなりません。

実際の預金の引き出しの際は銀行の本支店で行わなくてはならないことがほとんどであり、キャッシュカードも後見人名義では発行してくれないことが多いと考えられます。

不動産の管理

不動産とひとことで言っても、「自宅不動産」なのか「他人に賃貸している物件」なのかで管理の注意点はまったく異なります。

自宅については次のとおりです。

土地については特に隣地との関係で適切に管理されているか(たとえば隣からの樹木の張り出しがないかどうかなど)、建物については雨漏りや破損がないかどうかなどをチェックします。
もし補修などの必要があれば被後見人の財産から適切な範囲での支出を行い、業者に発注することができます。
ただやはり大がかりな出費を伴う場合、あらかじめ家庭裁判所に相談することが必要です。

事業用不動産については次のとおりです。

賃借人との契約関係がどうなっているかを確認しておくことは必須です。
更新時期が近づいていないかどうか、また、更新の際に適切な賃料に改定するべきではないかといったことも検討事項になります。

そして、これは自宅でも同じことがいえますが、公租公課(固定資産税など)の支払いが適切にされているか(滞納していないか)をチェックしておくことも非常に重要です。