遺産分割(いさんぶんかつ)
「遺産分割」というのは、相続財産が最終的にどの相続人に帰属するのかを決定するための手続きです。
遺産はとりあえず相続人の共有になる
「相続」は人の死亡によってその瞬間に発生するものであり、人為的に行うものではありません。つまり、相続人がそれを希望するか否かを問わず、いったんは法定相続人(民法で定められた範囲の相続人)全員の共有状態になっています。
つまり、自分がその財産を保有しているという自覚がまったくなかったとしても相続財産の共有持分を保有しているという理屈なのです。そして、その共有状態は「遺産分割協議」をすることによって遡って「相続することになった相続人に帰属する」ことになります。
実際にそのことがどのような場面で影響してくるのかというと、たとえば相続人の一人が債務整理をするような場合です。
たとえば、個人再生や自己破産といった手続きでは、申立人(債務者)にどのくらいの財産があるのかということが手続きに影響してきます。
自己破産の場合、もし財産があればそれを売却する手続きが必要になるため破産管財人が選ばれるので、財産のあるなしによって手続きの流れが大きく変わってくることになります。
遺言書があればそれが優先する
もし、被相続人(亡くなった人)が、「自分の遺産はこのように分けてほしい」などの希望を法的に有効な遺言書で遺していれば、そちらが優先されることになります。つまり、法定相続人の遺産分割協議を待たずに遺産の分け方が決定することもあるわけです。
遺言書があるかどうかの確認の仕方ですが、もし故人が公正証書遺言を作成していた場合、全国どこの公証役場からでも相続人であることを証明すれば検索してもらうことができます。
ただ、遺言書を自宅で書いている「自筆証書遺言」の場合はどこに保管してあるのかがわからないことが多いでしょう。よって、故人の部屋や貸金庫、その他思いつく限りあらゆる場所を探さなければならないこともあります。
もし、自筆証書遺言があったらそれは必ず「検認」という手続きを経なければなりません。検認というのは家庭裁判所で行われる「証拠保全」のための手続きです。要するに、遺言書がその時点においてその状態で存在していたことを証明する手段ということになります。
よって、検認により不正な改ざんなどを防ぐことはできますが、遺言書の内容そのものが適切かどうかというのはまた別問題になりますので、その点を争いたい相続人は別途、協議を持ちかけるか調停や裁判をしなければならないこととなります。
また、もし封がされている遺言書を勝手に開封してしまうと5万円以下の過料に科せられるので、その点にも注意しなければなりません。
日本における遺言書作成割合はまだまだ低く、多くの場合は遺産分割協議を行わなくてはならないこととなります。
遺産分割協議のルール
遺産分割協議は、法定相続人全員で行わなければなりません。たとえ連絡が取れない相続人や認知症の相続人がいたとしてもその人を外すことはできないのです。
もし行方不明の人がいれば「不在者の財産管理人」、認知症の人がいれば「成年後見人」など、家庭裁判所によって適切な代理人を選んで行わなくてはなりません。
近年、高齢化の進行によって「相続人の一人が認知症」ということも珍しくありません。そのような場合は認知症の相続人について「成年後見人」という役職の人を選んで、代わりに遺産分割協議をしてもらわなければならなくなります。
ただし、成年後見人を選んだとしてもその人もまた相続人の一人であった場合はさらに遺産分割協議だけのための「特別代理人」を選ぶという二段階の手続きになります。
もし成年後見人もしくは特別代理人が本人に代わって遺産分割協議をするのであれば、少なくとも本人の「法定相続分(民法で定められた相続分)」は確保しなければならなくなるため、他の相続人が考えていた通りの遺産分割ができなくなる可能性もあります。
成年後見制度は本人の財産権を保護するために設けられている制度であるため、その理念に反するわけにはいかないからです。
遺産分割協議をする際は、実際にはなかなか全員が集まることができないことも多いでしょう。
全員が同じ場所に集合して話し合いを持つ必要はないのですが、少なくとも全員が内容に合意をし、署名、実印での押印、印鑑証明書の添付が必要となります。
この、遺産分割協議書は不動産の名義変更、預金解約など色々な手続きにおいて必要とされる書類ですが、金融機関の預金解約等においては、その銀行ごとの独自の書式に押印しなければならないこともあります。
合意ができないときは
もし、どうしても遺産分割の内容に全員が合意できない場合、家庭裁判所に調停の手続きを申立てることになります。調停では、裁判官と調停委員(裁判所が選んだ有識者など)が中立的に話を進めていくことになりますが、一定の内容の遺産分割を強制するわけではありません。
ただ、いったん調停で決めた内容を合意してしまえばこれには法的な効力があります。